韓国・全羅北道の馬耳山(マイサン)探訪記
馬の耳に似た山と108基の石塔、神秘的なタフォニ地形の世界
全羅北道(現在の全北特別自治道)鎮安(チナン)郡を訪れるなら、一度は足を運んでみたい場所が馬耳山(マイサン)です。写真で見ても、一般的な韓国の山とは明らかに異なる独特の姿をしています。遠くから見ると、まるで馬が耳をぴんと立てているような二つの峰がそびえ立っています。その姿から「馬耳山」という名前が付けられたと伝えられています。
馬耳山は二つの峰に分かれています。東側の峰は「雄馬耳峰(スンマイボン)」、西側の峰は「雌馬耳峰(アムマイボン)」と呼ばれています。高さはそれぞれ約667mと約673mです。二つの峰の間には「天皇門(チョンファンムン)」と呼ばれる峠があり、馬耳山の主要な登山道はこの周辺を中心に北側と南側へつながっています。
馬耳山の入口で出会う大きな湖、塔影池
馬耳山南部駐車場方面から入ると、山へ向かう道の途中で美しい湖が目に入ります。これが「塔影池(タピョンジェ)」です。
初めて馬耳山を訪れる人は、奇妙な形をした山の峰だけを想像して来るかもしれません。しかし、実際には入口付近に広がる大きな湖と周囲の景色にも驚かされます。
塔影池は、馬耳山の二つの峰と周囲の森が湖面に映る美しい場所として知られています。風の少ない日には、湖の水面に馬耳山の姿が映り、まるで一幅の山水画のような景色を見せてくれます。
春には周囲の桜と湖が美しく調和し、秋には紅葉が湖畔を彩ります。山に登る前後にゆっくり散策するのにも適した場所です。
馬耳山の代表的な探訪コースは、北部駐車場や観光団地から出発し、天皇門、銀水寺(ウンスサ)を経て塔寺(タプサ)へ向かい、その後、塔影池と金塘寺(クムダンサ)方面へ下るルートです。全長は約3.3kmで、ゆっくり歩いても1時間30分から2時間ほどのコースです。専門的な登山をしない人でも挑戦しやすいルートといえるでしょう。
岩壁に蜂の巣のように開いた世界的にも珍しいタフォニ地形
馬耳山の本当の神秘は、山に近づいたときにさらに強く感じられます。岩壁の表面に大小さまざまな穴が無数に開いているからです。
まるで巨大なコンクリートの壁に、誰かが意図的に穴を開けたようにも見えます。しかし、これは長い年月をかけて自然の風化作用によって形成されたものです。
このような地質現象は「タフォニ(Tafoni)」と呼ばれています。岩石の内部と表面が長い時間をかけて雨や風、気温の変化などの影響を受け、岩の一部が崩れたり剥がれたりすることで、岩の表面にくぼんだ穴が形成されます。
馬耳山のタフォニは、その規模と発達状態が非常に独特で、世界的にも注目されている地質現象の一つです。特に岩壁を近くで見ると、無数の穴が集まっている 모습は、まるで巨大な蜂の巣のように見えます。
山道を歩きながらこの岩壁を眺めていると、「いったい誰がこの山をこのように彫刻したのだろう」と思ってしまうほどです。しかし、ここにある岩は誰かが作った芸術作品ではありません。非常に長い地質学的な時間の中で、自然が少しずつ岩を削り、穴を作り上げた巨大な自然の作品なのです。
塔寺に入ると始まる、もう一つの神秘
馬耳山を訪れた人が最も強い印象を受ける場所の一つが塔寺です。塔寺の入口では、大人1人3,000ウォンの入場料が必要です。
中に入ると、自然石を一つ一つ積み上げて作られた数多くの石塔が目に入ります。
これらの石塔は、観光客が遊び半分で積み上げたものではありません。塔寺の石塔には、一人の男性が長い年月をかけて積み上げた信仰と祈りが込められています。
石塔を築いた人物は「李甲龍(イ・ガプリョン)処士」と呼ばれる人物です。1860年に全羅北道の任実(イムシル)で生まれ、25歳頃に馬耳山へ入ったと伝えられています。
その後、昼間は周辺から石を集めて運び、夜になると祈りを捧げながら石塔を積み上げる生活を続けたといわれています。
伝説によると、李甲龍処士は人々の罪を代わりに祈り、世の中の平和を願うために石塔を築いたとされています。また、神からの啓示を受け、天地陰陽の理と八陣図法に基づいて塔を築いたという伝承も残っています。
こうして約30年にわたって築かれた石塔は、全部で108基あったと伝えられています。
108という数字は、仏教で語られる「108の煩悩」とも結びついています。そのため、塔寺の108基の石塔には、人間の煩悩を払い、世の中の平和を願う意味が込められていると考えられています。
強い風にも耐える石塔の不思議
塔寺で最も驚かされるのは、石塔の作り方です。
石をセメントや鉄筋で固定したわけではなく、自然石を一つずつ積み上げています。それにもかかわらず、長い年月の間、強い風や雨に耐えながら現在まで残っています。
石塔は大きさも形もさまざまです。高さ1mほどの小さな塔から、10mを超える大きな塔まであり、「天地塔」「五方塔」「日光塔」「月光塔」「薬師塔」など、それぞれ名前が付けられた塔もあります。
その中でも「天地塔」は塔寺を代表する石塔の一つです。大きさの異なる石を巧みに積み上げた姿は、近くで見るほど驚きを感じさせます。
一つの石を間違った場所に置けば全体のバランスが崩れてしまいそうですが、石塔は長い年月を経た今もその姿を保っています。
李甲龍処士が築いた108基の石塔のうち、現在残っているのは約80基とされています。100年以上の時間が過ぎた今も石塔が残っているという事実そのものが、塔寺をより神秘的な場所にしています。
馬耳山が祈りと民間信仰の場所になった理由
馬耳山を歩いていると、ここが単なる観光地ではなく、独特の信仰の場所でもあることを感じます。
二つの峰が向かい合い、その間に深い谷が形成されています。さらに巨大な岩壁と数多くの石塔が一つの場所に集まっています。
古くから、このような独特な山の形を「特別な気が集まる場所」と考える人々が多くいました。
特に「雄馬耳峰」と「雌馬耳峰」という二つの峰の名前は、陰陽の調和を連想させます。そのため馬耳山は昔から祈りを捧げる人々が訪れる場所となり、現在も巫俗信仰に関わる人々や祈願をする人々が山の気を受けるために訪れるといわれています。
馬耳山に入ると、一般的な山とは少し違った雰囲気を感じる理由もここにあります。巨大な岩壁の下に石塔が並び、静かに祈りを捧げる人々の姿も見られるため、どこか神秘的で不思議な空気が漂っています。
もちろん、この「気」についての感じ方や解釈は人によって異なります。ある人は地質学的に珍しい山として見ますし、また別の人は信仰の場所として受け止めます。
しかし、科学的な自然景観と長い信仰の歴史が共存していることこそ、馬耳山の大きな魅力なのではないでしょうか。
銀水寺と金塘寺も一緒に訪れたい
馬耳山を訪れたなら、塔寺だけを見て帰るのは少しもったいないでしょう。
塔寺の上方には銀水寺があり、登山道を歩きながら馬耳山独特の岩壁や山の形をさらに近くで見ることができます。
塔寺から下山すると、再び塔影池の美しい湖の景色を楽しむことができます。南側へ進めば金塘寺も一緒に訪れることができます。
馬耳山の探訪路は、単純に山頂を目指す登山コースというよりも、湖、寺院、石塔、奇岩と断崖を順番に訪ねていく探訪コースに近い印象があります。
また、鎮安は韓国産の高麗人参「紅参(ホンサム)」の産地としても有名です。旅の最後に鎮安の紅参関連商品を購入したり、地域の食堂で全羅道ならではの郷土料理を味わったりするのもおすすめです。
時間に余裕があれば、龍潭湖(ヨンダムホ)まで足を延ばし、美しい湖と山々の風景を楽しむのもよいでしょう。
ソウルから馬耳山へ行く方法
ソウルから車で移動する場合、約3〜4時間ほどを見ておくとよいでしょう。京釜高速道路や中部高速道路などを利用して全羅道方面へ向かい、その後、鎮安方面へ進むルートが一般的です。
週末や祝日は交通量によってさらに時間がかかる場合があります。
公共交通機関を利用する場合は、ソウルから全州(チョンジュ)まで移動した後、全州から鎮安行きの市外バスを利用する方法が比較的便利です。
鎮安バスターミナルに到着した後は、馬耳山方面の路線バスまたはタクシーを利用します。
ただし、馬耳山は北側と南側で探訪ルートが異なるため、出発前にどちらの方向から入るかを決めておくことが大切です。
塔影池と塔寺を中心に見学したい場合は南部駐車場方面が便利です。一方、北部観光団地から出発して天皇門と銀水寺を経由し、塔寺方面へ向かうルートも多くの観光客に利用されています。
自然の時間と人間の時間が出会う場所
馬耳山を歩き終えて帰るとき、最も長く記憶に残ったのは、巨大な岩壁とその下に立ち並ぶ石塔の姿でした。
タフォニは、数百万年という自然の時間が作り出した痕跡です。
一方、塔寺の石塔は、一人の人間が約30年という長い年月をかけ、毎日石を運び、祈りながら築き上げたものです。
自然は非常に長い時間をかけて岩を削り、人間は一生に近い時間をかけて石を積み上げました。
馬耳山は、まさにこの二つの時間が一つの場所で出会う場所です。
馬の耳に似た独特な二つの峰、蜂の巣のように穴が開いたタフォニの岩壁、塔影池の静かな湖、そして李甲龍処士が残した108基の石塔。
これらすべてが一つの場所に集まっているからこそ、馬耳山は単なる登山地ではなく、一度は自分の足で歩いてみたい特別な探訪地なのです。





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